ビジネスコミュニティの成長戦略『BtoBマッチメイキング』とは
近年、イノベーションの加速や人的ネットワークの重要性など、様々な観点からビジネスコミュニティの重要性が高まっています。特に、技術の進歩とグローバル競争の激化により、単独企業での研究開発や新規事業の立ち上げが困難になる中、異業種や異分野との交流を通じて、新たなアイデアやソリューションを生み出すオープンイノベーションの重要性も増してきています。
こうした中、コワーキングスペースやインキュベーション施設などが主体となって運営するビジネスコミュニティに注目が集まっています。ビジネスコミュニティを通して生まれる異業種間の交流や共同研究が、新たな事業機会やイノベーションを生み出す鍵となっています。
一方、こうしたビジネスコミュニティの運営者にとって、コミュニティ参加者の満足度向上と定着率の向上は大きな課題です。多様な業界やビジネス背景を持つ参加者のニーズに応えるためには、効果的なコミュニティマネジメントが不可欠です。
この課題を解決する新たなアプローチとして期待されているのが「BtoBマッチメイキング」です。BtoBマッチメイキングとは、特定の目的や相互利益のために、異なる人物や企業、団体を結びつけるプロセスのことを指します。欧米諸国では、イベントや展示会などのイベント参加者同士のマッチメイキングが主流です。日本においては、コワーキングスペースやインキュベーション施設などのビジネスコミュニティ運営者が主体となり、顧客やステークホルダーのニーズに適した人や企業を紹介することで、関係性を強化し、顧客ロイヤリティを向上させる手法として注目されています。
なぜ今「BtoBのマッチメイキング」が注目を集めているのでしょうか?
本記事では、現在ビジネスシーンにおいて「BtoBマッチメイキング」が注目されている背景や、具体的な実践ステップについて解説していきます。
目次
BtoBマッチメイキングとは
BtoBマッチメイキングとは、ビジネスコミュニティにおいて、二者以上の異なる人物や企業・団体間の新しいビジネス機会や価値創出を行うためのつながりを高確率で創出するプロセスです。 データ・AIを活用して、企業同士が最適なビジネスパートナーを見つけやすくし、効果的なネットワーク構築をする概念として作られた言葉です。
コワーキングスペースやインキュベーション施設に限らず、多様なビジネスパーソンがステークホルダーとなるビジネスコミュニティの運営者にとって、BtoBマッチメイキングは有効な手法です。例えば、以下のような事業者が挙げられます。
- コワーキングスペースやインキュベーション施設:入居者同士のマッチングにより、新たなビジネス機会やコラボレーションを創出できます。
- 金融機関:顧客企業同士のマッチングを通じて、融資先の発掘や事業支援を行うことができます。
- 経営者コミュニティ:会員である経営者同士のマッチングを促進し、ビジネス連携や情報交換の機会を提供できます。
- イベントや展示会の主催者:参加者同士のマッチングを通じて、イベントの価値を高め、リピーターを獲得できます。
- メディア・プラットフォーム企業:読者、ユーザー、広告主など、多様なステークホルダー同士をマッチングすることで、コミュニティの活性化やビジネス機会の創出が期待できます。
- 自治体・政府機関:地域の企業や住民、関連団体とのつながりを持っています。これらのステークホルダー同士をマッチングすることで、地域経済の活性化や社会課題の解決を促進することができます。
- 大学・研究機関:大学や研究機関は、学生、教員、研究者、卒業生など、多様なステークホルダーを有しています。これらのステークホルダー同士をマッチングすることで、共同研究や産学連携、人材の輩出などが促進されます。
- NPO・社会起業家:支援者、ボランティア、関連団体などのステークホルダーを有しています。これらのステークホルダー同士をマッチングすることで、社会課題の解決に向けた協働を促進することができます。
このように、BtoBマッチメイキングは、様々な事業者にとって有効なアプローチであり、自社の無形資産であるネットワークを活用しながら、ステークホルダー間の関係性を強化し、新たな価値創造を実現するための重要な手法だと言えます。
ビジネスマッチングやコミュニティマーケティングとの違い
ビジネスコミュニティ運営者にとって、「BtoBマッチメイキング」という言葉は「ビジネスマッチング」や「コミュニティマーケティング」と似ているように感じられるかもしれません。以下に、それぞれの特徴や考え方の違いについて整理します。
「ビジネスマッチング」は、主にコミュニティ参加者が求めるアプローチです。個人や企業が自社のニーズに合う取引先や協業先を見つけ、直接的な利益を得ることを目的としています。1対1の関係性に焦点を当て、直接的なビジネス機会の創出を目指します。
例えば、経営者コミュニティに参加する経営者が、自社の新規事業のパートナーや投資家を見つけるために、他の参加者と積極的に交流する活動がこれに該当します。
一方、「コミュニティマーケティング」は、主にコミュニティ運営者が採用する戦略です。運営者がコミュニティ全体の価値を高め、自社のブランド価値向上や事業成長を実現することを目的としています。コミュニティ全体の活性化を図り、長期的な関係性構築に焦点を当てます。
運営者は参加者間の交流を促進し、共通の関心事や価値観に基づいてコミュニティを形成・維持します。
そして、これら二つのアプローチの中間に位置するのが「BtoBマッチメイキング」です。
このアプローチは、参加者個々のビジネスニーズを満たしつつ、コミュニティ全体の価値向上を同時に実現することを目的としています。コミュニティ運営者が主体となりますが、参加者のニーズを深く理解し、それに応える形で実施されます。
BtoBマッチメイキングの特徴は、参加者同士の多面的な関係創出を促進し、運営者主導で戦略的なマッチングを行う点にあります。ビジネスマッチングのように個別の利益を追求しつつ、コミュニティマーケティングのようにコミュニティ全体の価値向上も考慮します。また、長期的な関係性構築を目指しながら、具体的なビジネス機会の創出にも注力します。
例えば、コワーキングスペースの運営者が入居企業の強みや課題を詳細に分析し、最適な協業パートナーを戦略的に提案する活動が、BtoBマッチメイキングの実践例として挙げられます。これにより、参加者は新たなビジネス機会を得られ、同時にコミュニティ全体の活性化と価値向上にもつながります。
BtoBマッチメイキングは、運営するコミュニティ内でのビジネスマッチングを創出することにより、コミュニティ全体の価値向上を目指し、間接的に自社の利益につなげる点が特徴的です。コミュニティマーケティング戦略にBtoBマッチメイキングを効果的に組み込むことで、ビジネスコミュニティの総合的な価値向上と活性化を実現できるのです。
なぜ今BtoBマッチメイキングが注目されているのか
なぜ今BtoBマッチメイキングが、ビジネスコミュニティ運営において注目を集めているのでしょうか?その理由として、以下の2つの点が挙げられます。
(1) オープンイノベーションの加速
近年、多くの企業が「自前主義」から脱却し、外部との協業を通じて新たな価値創造を目指す「オープンイノベーション」に注力しています。特に、異業種交流による革新的なビジネスモデルの創出が注目を集めており、ビジネスコミュニティはその重要な接点となっています。
この潮流の中で、BtoBマッチメイキングは、ビジネスコミュニティ内の異業種間連携を効果的に促進し、参加者のオープンイノベーションを加速させる触媒の役割を果たします。これにより、参加者は新たなビジネス機会を獲得し、コミュニティへの満足度が向上します。多くのBtoBマッチメイキングを実現できるコミュニティは、イノベーションの温床として社会的にも高い価値を持つ場として認識されるようになります。
(2)「ハブ」としてのコミュニティ価値
ビジネスコミュニティが人と人・企業と企業との「ハブ」となることは、運営者にとっても大きな価値を生み出します。シカゴ大学のロナルド・バート教授が提唱した「ストラクチャー・ホール」という概念は、この「ハブ」の重要性を端的に説明しています。「ストラクチャー・ホール」とは、情報やリソースの流れが乏しい異なるグループ間の「橋渡し」となる位置のことを指します。*
*Burt, Ronald S. (1992). “Structural Holes: The Social Structure of Competition.”
コミュニティがこのストラクチャー・ホールを埋める「ハブ」として機能し、情報の仲介者として参加者のイノベーションを促進・支援することで、多様な情報がコミュニティに集積するようになり、コミュニティ運営者は情報的優位性を獲得できます。また、多くのビジネスチャンスや成長の機会が得られるコミュニティは、参加者にとってより魅力的な存在となり、ロイヤリティ向上や新規参加者の獲得にもつながります。BtoBマッチメイキングを通じて、ストラクチャー・ホールを埋める「ハブ」となることは、ビジネスコミュニティの価値を大きく高め、コミュニティの持続的な成長を促進する戦略的アプローチなのです。
BtoBマッチメイキングは、ビジネスコミュニティ運営者にとって、コミュニティの活性化とロイヤリティ向上をはかる重要な取り組みです。コミュニティ参加者のニーズや強みを深く理解し、的確なビジネスマッチングを実現することで、コミュニティ全体の価値を高め、参加者の満足度向上と持続的な成長につなげていくことができるでしょう。
BtoBマッチメイキングの実例
ここでは、コワーキングスペースとインキュベーション施設が運営するビジネスコミュニティにおけるBtoBマッチメイキングの成功事例を紹介します。
(1) WeWork
WeWorkは、世界各国でコワーキングスペースを展開する企業です。同社は、コワーキングスペースの提供だけでなく、入居企業同士のマッチメイキングにも力を入れています。
WeWorkでは、入居企業のビジネスニーズや課題を把握し、それらに適した企業を紹介するマッチメイキングサービスを提供しています。例えば、ITスタートアップ企業に対して、大手IT企業を紹介し、共同開発や技術提携を促進したり、海外展開を目指す企業に対して、現地のパートナー企業を紹介したりしています。
WeWorkのマッチメイキングサービスは、入居企業の事業成長と、コワーキングスペース内のコミュニティの活性化に大きく寄与しています。実際に、WeWorkのマッチメイキングを通じて生まれたビジネス連携は数多く、同社のコワーキングスペースは、イノベーションの拠点として高く評価されています。
WeWorkの事例は、コワーキングスペースがBtoBマッチメイキングの有力な場になり得ることを示しています。多様な企業が集まるコワーキングスペースは、企業同士の「弱い紐帯」を生み出す最適な環境だと言えるでしょう。
参考:https://wework.co.jp/feature/community
(2) KDDI∞labo
KDDI∞labo(KDDI無限ラボ)は、KDDI株式会社が運営するスタートアップ支援プログラムです。このプログラムは、新興企業やベンチャー企業が事業を成長させるために必要なリソースやネットワークを提供することを目的としており、スタートアップがKDDIの技術やインフラ、顧客基盤を活用して新しいビジネスモデルやサービスを開発するサポートが可能なイノベーション創発のプログラムです。
また、KDDIのような事業アセットを持つ企業がイノベーション創発を目的としたビジネスコミュニティを展開することで、参画企業はKDDIの技術・インフラなどアセットの活用、顧客基盤やビジネスネットワークへのアクセス、メンタリングやサポート、参画企業からの資金調達、市場テスト機会の獲得などビジネスにおける具体的な利点を多く得られ、自社のサービスやプロダクトの開発を大きく加速させることができます。
参考:https://www.kddi.com/open-innovation-program/mugenlabo/
これらの事例から、BtoBマッチメイキングは、コワーキングスペースやインキュベーション施設、事業者支援を手掛ける金融機関がコンサルなど、様々な業種・業態で活用され、ビジネスにおける課題解決と事業成長に大きく寄与していくことがわかります。今後、BtoBマッチメイキングに取り組む企業は増えていくと予想され、イノベーションの促進とビジネスエコシステムの構築に重要な役割を果たすことが期待されます。
BtoBマッチメイキングを行うためのステップ
BtoBマッチメイキングを効果的に行うためには、戦略的なアプローチが必要です。ここでは、BtoBマッチメイキングを行うための3つのステップを紹介します。
(1) コミュニティ参加者情報の可視化
BtoBマッチメイキングを行う上で、まず重要なのは、コミュニティ参加者のニーズとシーズを正確に把握することです。参加者が抱える様々な課題や要望、提供できるリソースや知見を明らかにすることが、マッチメイキングの基盤となります。
ニーズとシーズを把握するためには、点在している参加者情報を収集・分析したり、必要であれば直接アンケートやインタビューを実施するなど、様々な手法を用いて情報を”見える化”します。収集した情報は、参加者の状況変化に伴って変わるため、データベース化し、随時更新していくことが重要です。
(2) マッチングの目的と基準の設定
次に、マッチングの目的と基準を明確に設定します。マッチングの目的は、事業課題の解決、既存事業の拡大、新規事業の創出など、コミュニティ参加者のニーズに応じて多岐にわたります。目的に応じて、マッチングの対象となるステークホルダーや、マッチングの成功基準を定義します。
例えば、コミュニティ参加者間における新規事業の創出を目的とする場合、異なる業種・業界同士のマッチングが求められる一方、既存事業の拡大を目指す場合には、同業他社同士でのアライアンスが有効であるかもしれません。
(3) マッチングの実行とアイディエーション
目的と基準が定まったら、マッチングを実行します。収集・解析した情報を用いて、コミュニティ参加者同士の相性を分析します。このとき、一方のニーズを満たすだけでなく、お互いにどのような貢献をし合えるかを考えることで、双方にとってwin-winの関係性を成立させることが重要です。また、双方の強みをかけ合わせて「どのような共創が可能か」を検討することで、課題解決や事業成長に直結する新たな価値創出が可能となります。このような検討プロセスを経て、ビジネス成長に資するマッチメイキングをコミュニティの中から創出することができるのです。
BtoBマッチメイキング成功のための3つのポイント
BtoBマッチメイキングを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、特に留意すべき点を3つ挙げます。
(1) コミュニティ参加者のニーズ・シーズの具体的な把握
BtoBマッチメイキングを行う上で、コミュニティ参加者のニーズとシーズを正確に把握することが重要です。しかし、これまでの事業活動で収集されているデータは、名刺情報やCRMなどの情報を含めて、自社としてどういう交渉履歴があるか、いつ訪問したか、サービスに対しての反応はどうかなど、すべて自社起点のものが大半です。
BtoBマッチメイキングのためには、コミュニティ参加者起点の情報を適切に保有する必要があります。参加者が抱える課題や要望、提供できるリソースや知見を、参加者の視点から具体的に把握することが求められます。そのためには、参加者の行動観察や直接的なコミュニケーション(アンケートやインタビュー)など、マッチメイキングのための情報収集アプローチが必要となります。
(2) データベースなどのツールを活用した属人化の防止
BtoBマッチメイキングを行う担当者個人にコミュニティ参加者の情報が蓄積され、属人化しやすいという課題があります。属人化が進むと、担当者の部署異動や退職によりマッチメイキングができなくなるというリスクが生じます。
この属人化を防ぐためには、データベースなどのツールを活用し、コミュニティ参加者の情報を組織的に管理することが重要です。担当者個人ではなく、組織としてコミュニティ参加者の情報を共有し、活用できる体制を整備することが求められます。
また、マッチメイキングの基準やプロセスといったノウハウを仕組み化し、継承していくことも重要です。担当者が交代しても、一定の質を維持してマッチメイキングを行えるようにすることが必要です。
(3) 効果検証とプロセスの改善
BtoBマッチメイキングの効果を検証し、プロセスの継続的な改善は不可欠です。効果検証には、定量的な指標(マッチング成立数、事業創出数など)と、定性的な指標(ステークホルダーからの評価、社会的インパクトなど)の両方を用います。効果検証の結果を踏まえて、マッチングのプロセスを見直し、改善点を洗い出します。また、コミュニティ参加者からのフィードバックを積極的に取り入れ、よりニーズに合ったマッチングを実現していきます。継続的な効果検証とプロセス改善により、BtoBマッチメイキングの精度と効果を高めていくことができるでしょう。
以上の3つのポイントを踏まえることで、BtoBマッチメイキングの効果を最大限に引き出し、継続的な取り組みとして定着させることができるでしょう。BtoBマッチメイキングは、単なる一時的な施策ではなく、組織的な能力として構築していくことが重要だと言えます。
国内初のAIを活用したBtoBマッチメイキングエンジン「TAILOR WORKS」
「TAILOR WORKS」は、自社を取り巻く多様なステークホルダーを可視化し、新たな事業価値の創出を支援するAIマッチメイキングエンジンです。ステークホルダーのビジネスニーズとシーズをかけ合わせたコラボレーションを促進し、コミュニティの成長に資する独自のビジネスエコシステム構築を支援します。
「TAILOR WORKS」では、AIを活用した自動プロフィール入力補助機能により、コミュニティ参加者の詳細で最新のプロフィール情報を効率的に収集します。また、AIによるマッチングアルゴリズムを活用し、経験の浅い担当者でも簡単に最適なマッチメイキングを行うことができます。さらに、AI Botとの会話により、マッチング相手との事業課題解決に向けた協業のシナリオや、初対面で会話する際に盛り上がる話題などのアイデアを創出することも可能です。
まとめ
本記事では、ビジネスコミュニティの新たな成長戦略として注目を集めている「BtoBマッチメイキング」について詳しく解説してきました。BtoBマッチメイキングは、ビジネスコミュニティにおける参加者間の戦略的なマッチング創出を通じて、参加者のビジネス成長を支援し、コミュニティの活性化とメンバーエンゲージメントの向上を目指すアプローチです。
TAILOR WORKSは、「世界を変えるつながりづくり」をミッションに、テクノロジーを活用してビジネスシーンのあらゆる関係構築を支援しています。ビジネスコミュニティにおけるBtoBマッチメイキングの戦略立案から実行までを一貫してサポートし、コミュニティの持続的な成長と価値創出を実現します。コミュニティの活性化と参加者の満足度向上を実現するための第一歩として、ぜひ無料相談をご利用ください。
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